蓮と睡蓮…なにが違うの?
睡蓮を指してハスと呼ばれるなど、かなりの確率で混同されます。
仏教のせい?
仏教で『蓮華』という言葉が良く使われます。
『蓮華』は蓮・睡蓮の花の総称であり、蓮・睡蓮を区分しません。
仏像、仏画でも蓮とも睡蓮とも言えない蓮華座(蓮華台・蓮台・蓮座)が描かれています。
サンスクリット語も色は指定されていても、蓮・睡蓮の指定はありません。
現在のインドの言語ヒンディー語では『カマル』で蓮・睡蓮を区分していません。オニバス、オオオニバスもカマルらしいです。
英語では?
ヒンディー語も英語もインド・ヨーロッパ語族というグループに元が同じ言語系です。そのため英語の『Lotus』も(学名などの狭義では『Nymphaea
Lotus』を指しますが)蓮・睡蓮総称であり、区分はありません。
米英語では『Lotus=蓮』『WaterLily=睡蓮』に区分されます。
植物分類学では
分類学上では1981年蓮がスイレン科に入れられ、研究が進みまったく違う系統であるとされたのは、意外と最近の1998年です。(次項詳細)
このような理由もあり、混同してもおかしくありません。
簡単な見分け方は… | ||||
蓮 | 睡蓮 | |||
花の位置 | 水面から高く上がる (高さは品種による) |
水面に浮かぶ (数cm~10cmほど) |
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花の特徴 | 中心部に花托がある | 花托はない | ||
種 | 蜂の巣状に出来る 円柱、球体状の形状 1~2cm程 |
花が散った後に膨らむ キウイフルーツの種に似る 1mm前後 |
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葉の色 | 夏は緑 (春~夏は赤も出る) |
緑、赤、斑、虎など (品種による) |
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葉の形 | 葉は円形 | 円形で切り込みがある 株中央側に切込みが入る |
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水中葉 | 水中葉はない(開かない) 増水時は一時的に沈む |
水中葉を出す (品種による) |
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水上葉 | 成長初期頃のみ | 水上葉が通常 | ||
気中葉 (立葉) |
成長中期以降 水面から大きく立ち上がる (高さは品種・容器次第) |
基本的には出ない (出ても数cm) |
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葉の特徴 | 撥水する | ツヤがある 撥水しない |
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根茎 (地下茎) |
レンコン (食用と同じ) |
ワサビ状(温帯) イモ状(熱帯) 球根(熱帯) |
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茎・葉 の質感 |
繊維質で裂ける 素手ではなかなか切れない トゲが多い |
簡単に折れる(切れる) |
※注意
熱帯睡蓮などの何種類かはこの条件に当てはまらない品種あります。
また、熱帯地帯の蓮は蓮根が出来ません(肥大化しない)。
いまだに、園芸店、ホームセンター、ブログなどでは、あたかも「仲間」や「親せき」のように扱われていることもあります。
APG IV(2016) | ||||||||||||
被子植物 | アムボレラ目 | |||||||||||
スイレン目 | ||||||||||||
アウストロバイレヤ目 | ||||||||||||
モクレン類 | ||||||||||||
センリョウ目 | ||||||||||||
単子葉植物 | ||||||||||||
マツモ目 | ||||||||||||
キンポウゲ目 | ||||||||||||
真正双子葉類 | アワブキ科 | |||||||||||
ヤマモガシ目 | ハス科 | |||||||||||
etc | ||||||||||||
植物をどこから「仲間」「親戚」と言うのかは不明ですが…
睡蓮はDNA分析により、2013年にスイレン科からスイレン目が立てられ、被子植物の中でも早い段階から分かれた原始的なグループとされました。
蓮はさらにグループを複数落としていることから、意外と進化した植物であると思われます。
「水辺で夏頃に花が咲く」「仏教では象徴的な植物」という抽象的な仲間ではありますが…
全然近いとは言えません。(育成方法もまったく違います。)
~ 蓮の由来 ~
『連』 +『くさかんむり』
連なって多く実を付ける(花を咲かせる)+植物
~ 「ハス」の由来 ~
花托(種)が蜂の巣に似ていることから
「蜂の巣」→「ハチス」→「ハス」
蓮は白亜紀後期の地層から化石で見つかっており約1億年前からあるとされる植物です。
最古の化石は日本で発見されたものとされ、約7000万~1億年前の化石が各地で発見されています。
現存するアジア種の原産地はインド説と中国説があります。
蓮はハス科以降、北米種とアジア種以外に仲間が全くない、完全に孤立した植物です。
APG分類体系 | ||||||||
ヤマモガシ目 Proteales |
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ハス科 Nelumbonaceae |
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ハス属 Nelumbo |
種 | |||||||
Nelumbo lutea (アメリカ)キバナハス |
北米・中米 カリブ海諸国 |
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Nelumbo nucifera ハス |
東・南・ 東南アジア |
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化石種↓ | Nelumbo aureavallis | 北米 | ||||||
Nelumbo changchangensis | 中国 | |||||||
Nelumbo minima | オランダ | |||||||
Nelumbo nipponica | 日本・ロシア | |||||||
Nelumbo orientalis | 日本 | |||||||
Nelumbo protolutea | 北米 | |||||||
ヤマモガシ目(Proteales)は『プロテア』と呼ばれる大型の花が生花店などで最近は目にすることがあります。蓮はこれの仲間となっています。
Nelumbo lutea アメリカ種 |
アメリカ東海岸 メキシコ・グアテマラ 大アンティル諸島 |
黄 |
Nelumbo nucifera アジア種 |
東アジア 南アジア 東南アジア |
紅、白、爪紅 |
現存するのはこの2種のみです。(北米種はアジア種の亜種で1品種のみという説も)
この2種は同じ形態、同じ染色体の数であることから交配させることが可能で、様々な品種が作り出されています。
蓮は花の大きさによる区分があります。
(分類学などで明確に定義されたものではなく、品種改良を行う人たちの間で決められたもの)
花、葉の大きさによる区分 | ||||
椀 | 小 | 中 | 大 | |
花の大きさ | ~8cm | ~15cm | ~25cm | 26cm~ |
容器直径 | 20cm~ | 30cm~ | 40cm~ | 50cm~ |
「椀」とは茶碗蓮の略ですが、作出者、研究者、生産者によっては「茶碗蓮」という括りがない事が多く曖昧な区分です。(多くは小・中・大)
茶椀蓮と言っても本当に茶碗サイズで育てられるわけではありません。20cmと書いていますが、30cmは欲しいところです。(花上りが全然違います!!)
ホームセンターなどで3~4号ポットに入れられた蓮を見るとかわいそう…
花弁の数による区分け | |||
一重 | 半八重 | 八重 | |
花の大きさ | ~25枚 | ~ | 50枚~ |
Mrs.スローカムのように「一重~半八重」と、その1つの花次第によるものもあります。
海外ではSingleとDoubleの分け方ですが…基準がわかりません。
半八重の区分はなく、ベッドサイズのようにSemi-Doubleはないようです。
~睡蓮の由来~
花が夕方に閉じる→「眠る蓮」→「睡る蓮」
と中国で付けられた。
誤字で多い「水蓮」はガガブタなど(食材名)
蓮とは異なり、世界各地に原種があります。
日本にはヒツジグサ(未草)が唯一自生する原種の睡蓮です。(その他は園芸種の野外流出)
睡蓮はDNA分析により、2013年にスイレン科からスイレン目『Nymphaeales』が立てられ、そこからスイレン科『Nymphaeaceae』スイレン属、コウホネ属、オニバス属、オオオニバス属など多くの属に分かれています。
スイレン属『Nymphaea』は今のところ6の亜属に分類されています。いまだ研究が進んでいない種が多くあるため、原種が何種あるのか不明です。
日本の一般的な園芸区分としては…
熱帯種 | 昼咲き | 普通種 | |||||||
ムカゴ種 (胎生種) |
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睡蓮 | 夜咲き | ||||||||
温帯種 | 普通種 | ||||||||
姫睡蓮 | |||||||||
日本では、一般的に「睡蓮」というと温帯睡蓮を指します。その温帯睡蓮を普通種(中~大型種)、姫睡蓮の(小型)2つに分けます。
ホームセンターや園芸店で売られているのは温帯種の普通種と姫スイレンの園芸品種です。
最近では熱帯種を取り扱うお店舗さんも見かけるようになりました。「オーガスト・コーチ」「ティナ・ウーバー(通称:ティナ)」「ドーベニアナ(通称:ドーベン)」などのムカゴ種を中心に揃えられています。
スイレンは花による大きさの区分というのが、あるにはありますが…
かなりアバウトな部分があります。
花、葉の大きさによる区分(温帯睡蓮) | ||||
姫 | 小 | 中 | 大 | |
花の大きさ | ~8cm | ~12cm | ~15cm | 15cm~ |
葉の大きさ | ~15cm | ~20cm | ~25cm | 25cm~ |
この区分がなんとも言えないもので…
生産者、作出者によっては…
「姫、超小型、小型、小中型、中型、大中型、大型」
という区分があったり…
「超小型、姫…」の順だったり…
「姫=超小型」だったり…
「A社では超小型なのにB社では中型…」ということもあります。
日本国内では小型~中型扱いの品種が、作出者の『Florida Aquatic Nurseries』から仕入れると、思わず吹き出すほど超大型サイズだったり…
正直…私は「姫スイレン」という区分がわかりません。
「姫スイレン」と呼ばれることのある品種の中には小型種、中型種に分類されている種ですら姫スイレンに含まれることがあります。
花、葉の大きさによる区分(温帯睡蓮) | ||||
姫 | 小 | 中 | 大 | |
号数 | 4号 | 5号 | 7号 | 10号 |
直径cm | 12cm | 15cm | 21cm | 30cm~ |
※号数は内鉢の最低サイズ
白、赤、黄、ピンクと色だけが表示され、品名も詳細も不明なものが多く出回っています。
「ハス」と名前がありますが、スイレン科オニバス属でスイレンの仲間です。
日本にも自生しています。
(関東某所は、あそこまで人工的に管理されていて“自生”かどうかは不明ですが…)
「オニバス」の名で販売されていることがありますが、オオオニバスとのハイブリット(交雑種)です。
オオオニバスは子どもが乗った写真等で有名ですが、「オオオニバス属」とさらに別属です。
スイレンの近縁種(スイレン科の植物)を軽くご紹介します。
葉っぱの雰囲気がスイレンにそっくりのものもあれば、「これが近縁種なの?」というまったく似ていないものもあります。
おもしろい事に、スイレン属だけは世界中に自生しています。が、他のスイレン科に属する植物の多くは、自生地が中央アジア~東アジア・オーストラリアに集中しているのが特徴です。
スイレン科 | |||||
ジュンサイ亜科 | |||||
ジュンサイ属 | 食用 | ||||
ハゴロモモ属 | カボンバ(金魚藻) | ||||
スイレン亜科 | |||||
スイレン属 | スイレン | ||||
コウホネ属 | コウホネ | ||||
バークレア属 | 独立させる傾向がある | ||||
オンディネア属 | 単種 独立させる傾向がある |
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オニバス属 | |||||
オオオニバス属 | |||||
バークレアとオンディネアはスイレンの仲間には見えません。
オンディネアは最近の分類で、睡蓮のオーストラリア原産のギガンティアが属する亜属「Anecphya」の派生とされています。
熱帯睡蓮の「セイロン・ヌパール」は「スリランカのコウホネ」と言う名が付くほど、葉縁が波打たず、斑模様も入らず、小ぶりの花で、熱帯睡蓮の特徴がほとんどない変わった品種です。「ロータス・ラビットイヤー(Nymphaea
oxypetala)」も「ラビットイヤー・ヌパール」と呼ばれることがあり、水槽内では水上葉を出しにくく、睡蓮の水中葉よりコウホネの水中葉に似ていることから呼ばれているようです。
似ている他科
アサザ、ガガブタはミツガシワ科『Menyanthaceae』アサザ属『Nymphoides』で、『Nymphoides』は「スイレンに似た」ということで名付けられました。
ハナガガブタ(通称:バナナプラント)が有名です。
食材として
おもしろい事にインド~東南アジア~中国ではスイレンもガガブタも、茎を同じ調理法で食べられています。ガガブタの中国での食品名「水連菜」「水蓮菜」です。
一般的には空心菜のように、ニンニク炒めで食べるようですが結構美味しいです!!
球根はでん粉として小麦などに混ぜるようですが、料理名がわかりません。
日本では蓮は蓮根、茎を食べますが、睡蓮(ヒツジグサ)を食べる習慣はありません。
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