蓮と睡蓮どっちが簡単?
寺院の蓮の植替えを委託で作業をしていると、よく参拝者の方々から…
「蓮はやってみたいけど…」
1.難しそう(初心者)だから
2.うちはマンションだから
3.大変そうだから
「睡蓮ならやれる!」という言葉を聞きます。
実は蓮の方が簡単です!!
植え付けられてしまったイメージでしかありません。
<蓮が見られる場所>
植物園、大きな公園、観光地化した湖沼、寺院、蓮根田んぼ(TVでタライに乗って行う収穫シーンが良く流れます)など
一般住宅地で蓮はまず見ません。
<睡蓮が見られる場所>
蓮とほぼ同じですが…
一般住宅でも玄関先に置かれていることがあります。
<蓮の販売店>
ホームセンター(以降「HC」と略)や町の園芸店で蓮が売っていることはありませんでした。最近になってようやく極稀に売られているのを目にします。
(しかし、超小型ポットで細かい説明がない→難しくなる)
<睡蓮の販売店>
睡蓮はG.W.前後からHC、園芸店、観賞魚店で売られています。
色だけで品種不明のヒメ睡蓮であれば1,500〜2,000円前後、品種ごとに売られている物は1,200〜3,000円程です。(最近値上がりしているようです)
<結果>
蓮はほとんど売られていない → 高い = 難しい(咲かないことが多い)
睡蓮は色々な店で売られている → 安い = 簡単(?)
と刷り込まれてしまう部分が大きいです。
<店側の無知>
蓮はまだ、一般的な園芸植物ではありません。
そのため、販売するHC、観賞魚店、園芸店の店員に知識がないことも十分にあります。
酷いところでは、完全に病気の状態、腐っている状態でそのまま販売されています。
逆に知識豊富&植物大好きな店員さんがいると、素晴らしい状態で販売されています。
<商品の闇>
1.小型ポット
φ10〜15cm(3〜5号)前後のポットで花色、一重・八重が選べるようになっています。
「植付け済み」+「小型ポット」=「初心者でも=そのまま蓮を育てられる!」
という雰囲気がありますが…
実際は、このままの状態で育てることは非常に難しく…私でも自信がありません。
1輪でも咲けば上出来で、咲かせることが出来ても来年の株分けは期待できません。
小型品種でも最低でφ30cm(10号)は欲しいところですが、葉が出ているため購入直後でも植替えが難しく、「植替えが必要」という表記もないため、「買ったもののいきなり枯れた」になることがあります。容器が小さく、蓮根も小さいため、そこまで蓮根の質も良くありません。
2.裸売り蓮根
小さなパックに蓮根と水が入れられた状態で販売されています。
この状態では長く持たず、ほとんどの場合が水カビにやられます。
おそらく生産者は殺菌消毒し、殺菌水に入れて出荷されていると思われますが、「生産者→卸問屋・センター→店舗」の間で時間が経過しており、店舗側が屋外に置いている場合は1日でダメになります。
蓮根も小さいため、そこまで蓮根の質も良くありません。
〜 良い商品と出会おう! 〜
<良い生産者>
蓮の有名生産者さんは大分、京都2社(うち1社は水生植物最大手)です。
商品の表示をしっかりみて、この3社さんならば品質は間違いありません。
<良い店舗>
夏に売れ残った商品の具合を見るのが手です。
複数の別系列を回り良い店舗の商品を見れば、誰でも違いが判ります。
関東の黒地白文字の巨大HCは蓮も睡蓮も凄く状態が良い!
あくまでも南関東在住の私的感覚ですが…
蓮よりも睡蓮の方が色々と条件が厳しく難しくなります。
「1簡単〜9難しい」で分けていくと…
1 蓮(小型普及種) 『小舞妃』『小三色』『八重茶碗』など
1 温帯睡蓮(小型普及種) 『オドラータ』『コロラド』など
1 熱帯睡蓮(普及ムカゴ種)『オーガストコーチ』『ドーベン』など
2 温帯睡蓮(小中型種)
――― 気にならない壁 ――(※1)
3 蓮(中型普及種)
4 温帯睡蓮(中〜大型普及種)
――― まぁまぁな壁 ―――(※2)
5 熱帯睡蓮(普及普通種)
6 蓮(大型種)
6 熱帯睡蓮(一般普通種・一般ムカゴ種)
7 蓮(原種系) 『大賀蓮』『即非蓮』『唐招提寺青蓮』など
――― かなり高め壁 ―――(※3)
9 温帯睡蓮(サイアム系、亜属間交配種など)
9 熱帯睡蓮(珍種) 色揚がり、花弁数などの特徴系、原種系
――――――――――――――
―― かなり厳しい絶壁 ――(※4)
――――――――――――――
★ 温帯睡蓮(一部原種)
★ 熱帯睡蓮(一部原種)
という感じでしょうか。
生産者、育成者の方の性格、地域、気候、水質…でもかなり異なると思いますが…
※1 『気にならない壁』
「少し大きな容器が必要」など、気が付いたら超えてるような壁。
※2 『まぁまぁな壁』
越冬処理が必要。
「大型容器が必要」「調整が必要」など難易度が上がる。
場所も取るため「家族の同意が得られるか?」が最大の壁。
※3 『かなり高め壁』
純粋に育成難易度が上がる。育成条件も厳しくなる。
水深、水面積の確保など。
※4 『かなり厳しい絶壁』
生息域の関係で、専用設備がないと不可能な品種。
一般的な環境では維持すら出来ず、開花などはまず不可能。
注意!!
熱帯睡蓮を分けていますが正確な分類ではありません。経験者の方は「確かにわかるかも!」となって頂けるかと思います。
<普及ムカゴ種>
HCでも売られている。南関東で屋外越冬出来る品種。
<普及普通種>
HCでも売られている普通種。関東で屋外越冬出来ることがある品種。(基本は越冬処理必須)
<一般普通種・一般ムカゴ種>
専門店で手に入る品種。越冬処理必須。知識と経験が必要。
(画像上 寺院植替え)
寺院のように容器も大きく、数が多いため数日掛けて行う必要があります。写真上を見れば、誰がどう見ても大変な作業に見えます。
(画像下 当社の育成蓮根)
φ50cm容器の蓮根ですが、一般宅ではこんなサイズにはなりません。もっと細くて可愛い蓮根です。
個人宅で1個2個を育成する場合は簡単です。
土の量は30cmポットで5〜7L、40cmポットで10〜12L程度あれば足ります。
慣れてくれば数分で終わります。場所も、新聞紙1枚程度〜1畳分の広さで出来ます。
<睡蓮の場合>
内鉢を設けている場合、ある程度簡単にひっくり返すことは出来ますが…
株分は蓮よりも倍以上の手間と時間はかかります。
・根も太い 温帯は根が生きていて切るのが手間
・ヒゲ根が多い(細かい根)
・地下茎、根、ヒゲ根(+茎と葉)が絡まりどうなっているかわかりにくい
・変な所から成長点(株別れの新芽)が出る
・作業中に気が付くと干からび始めていることも
<結論>
蓮の方が、力作業が必要(品種、容器サイズによる)。
睡蓮の方が、細かい作業を長時間必要。
『ベランダで蓮』が育てられる商品が出来ました。
(右実際の写真)
以前から、一番上にある
「アパート・マンションだから…」と言うのが、どうにかならないものか考えておりました。
1.泥汚れが出ない
2.水場の問題
3.植替え・植付けが楽
4.軽い
と、『蓮の植替えは大変?』の画像とは完全に真逆を目指しました!!
詳しくはこちら → → → 『ベランダで蓮』
『睡蓮鉢』という名称で色々と販売されています。
中にはどう考えても蓮、睡蓮には向かない鉢がたくさんあります。
<蓮に必要な鉢>
1.円形(楕円可)
2.口が内側に折り返していない
3.ある程度の直径がある(φ30cm〜)
4.30cm以上の深さがある
陶器、プラ、ポリなど種類が豊富です。また、穴無のナーセリーポットや丈夫な鉢カバーでも育てられるので、色々なところで売っています。
売っていなくても底穴さえ埋めれば良いので簡単です。
<睡蓮に必要な鉢>
1.口が内側に折り返していない
2.口の直径が広い方が良い(深さよりも面積)
3.10〜30cmの深さがある
睡蓮は浅い水深を好むため、意外と丁度良いサイズは売っていません。
トロ舟は、睡蓮の性質を考えるとピッタリですが、小さいものは浅過ぎ、大きいと場所を取り、運ぶのも大変です。そのままだと見た目が…
浅型の円形プランターを、水漏れ防止加工するのがベストかもしれません。
<結論>
蓮と睡蓮では、睡蓮の方が、口が広い容器(=場所を取る)ため広いスペースが必要です。
あまり気にされない方が多いですが…
水深の維持はとても重要です。
「水深がある=水の容量も増える」ので毎日水を入れる必要がないという点で、とても楽になります。
<蓮の場合>
〜水深が浅い〜
・真夏は水切れが起こりやすい
・根が成長すると土が持ち上げられ水量が減る
〜水深が深い〜
・4〜5月は水温が上がらず成長が遅れる
(植付け直後は水を少なくする)
<睡蓮の場合>
〜水深が浅い〜
・浅い方を好む(5〜10cmもあれば十分) ※
〜水深が深い〜
・葉を持ち上げられる高さに限界がある(水中で腐る) ※
・株元に日光が当たらず開花しにくくなる
・鉢が深い場合、鉢の中に内鉢で高さを調整する必要がある
※ 品種によっては水深が深くないと休眠する
意外と池ではいける(品種による)
観賞魚で用いられる品種は水中葉の状態でも可
<結論>
蓮は葉からの水の蒸発量が多く、立葉が水を弾く影響で雨水も入りにくく、真夏に水切れを起こしやすいのがネックです。
睡蓮は品種と容器さえ合っていれば、雨が降る度に水が確保できるため、水切れをあまり気にする必要がありません。
害虫と言うとほとんどの人がボウフラ、ミジンコを思い浮かべるかもしれませんが、実はそれだけではありません。
害虫名 | 蓮 | 睡蓮 | 害 | 対 策 | |
水 中 |
ミジンコ | 〇 | 〇 | 実は益虫! | メダカ |
ボウフラ | 〇 | 〇 | 睡蓮 葉食害 | メダカ | |
赤虫 | 〇 | 〇 | 地下茎食害 | ドジョウ(土中に潜る) | |
イトミミズ | 〇 | 〇 | 実は益虫! | ドジョウ | |
ハナウジ | 〇 | 〇 | 実は益虫! | メダカ(大型は無理) | |
水ミミズ | △ | △ | 不明 | ドジョウ | |
ヒル | 〇 | 〇 | 貝類を食べる | メダカ、ドジョウ | |
ヤゴ | 〇 | 〇 | 生体の食害 | 手作業で駆除 | |
葉 | アブラムシ | 〇 | 〇 | 最悪枯れる | 風通しを良くする |
ヨトウムシ | 〇 | 〇 | 葉の食害 | 手作業で駆除 風通しを良くする |
|
ナメクジ | 〇 | 葉・花の食害 | 鉢を直置きしない | ||
花 | 〇 | ||||
ハチ | 〇 | 〇 | 危険 | どうしようもない 風通しを良くする |
ミジンコやハナウジ(ハナアブの幼虫)、イトミミズは見た目は悪いですが…
ミジンコ(種類によっては肉食)は藻や枯葉を食べ、ハナウジ(無毒)は受粉を助け、イトミミズは泥を軟らかくします。
アブラムシは睡蓮の場合風通しの確保は難しいです。
蓮、睡蓮共に、足し水や葉水時に水を当てて落とすとメダカが食べてくれます。
化学農薬ではなく、各メーカーから自然成分由来の害虫駆除薬が出ています。
代用品(牛乳、洗剤、酢)をすすめるサイトが多いです。
「焼け」「葉が呼吸出来ない」「腐敗の原因」「別の雑菌害虫の元」になり、おすすめしません。
木酢液・竹酢液を希釈し自作する方が無難です。
(木酢液・竹酢液はメーカー、製品により濃度が異なるため注意して下さい)
※注意
一般的な家庭に出現する害虫をリストアップしています。
水田が近い場合、ハクイムシやゾウムシなども発生します。
藻が湧いた…
水が腐敗した…
という話をよく聞きます。
<蓮の場合>
蓮は春・秋にアオミドロがわく程度で、真夏に藻が酷く発生することはあまりありません。
また、浮草という最強生物兵器が高効率で使用できます。蓮の場合、暖かくなると葉が立ちます(立葉)。立葉の間から木漏れ日が差し込むことで藻が増えます。浮草を入れておくと、水面を覆い水中に陽が差さないため藻は増えにくくなり、異常な水温上昇も抑える事が出来ます。
<睡蓮の場合>
睡蓮の場合は、立葉はほとんど出しません(気持ち立ちます)。水面から大きく出ている状態で放っておくと干乾びて枯れます。
藻が酷い状態では、根に光が届かず元気が出ない、葉が開かない、花が開かない、花が歪むなど成長に大きく影響します。
浮草は対藻の水温上昇防止に有効ではありますが、睡蓮と同じ水面を奪い合うため効率としては微妙なところです。
<結論>
蓮の藻対策は水草任せですが、睡蓮は藻が…
蓮や睡蓮だけで育成する人も多いですが、水草を入れることをお勧めします。
私も興味を持ち始めるまでは「温帯睡蓮の方が簡単なんだろうな」と思っていました。
が、実際のところ睡蓮を「きれいに、いっぱい咲かせたい」場合、蓮よりも大きな容器が必要で、その分場所を取ります。
睡蓮は水面までしか葉を出さないためです。
その点、蓮の場合は勝手に日光を求めて水面から立ち上がり成長します。「何よりもこの差が大きい!!」
さらに様々な実験を行ってみた結果、土、肥料、水質管理…
どれをとっても簡単なのは蓮になってしまいました。
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